厚生労働省方式・社員意識調査(NRCS)

●診断理論(分析法)

個人的態度と集合的態度

もともと、態度は、好き―嫌い、肯定―否定、満足―不満、などの感情を含む、個人に関わる概念として考えられていた。これを、集団に関わる概念にまで拡張したのはバーナード(Bernard,1930)である。すなわち、バーナードは、態度を、個人的態度、社会的態度、集合的態度、の3つに区別し、それぞれについて、次の様に定義している。

a 個人的態度 ある対象に対して経験を通して当の個人のうちに形成された持続的な構え
b 社会的態度 社会的な事象に向けられた個人的態度
c 集合的態度 集団の成員の間で高度に標準化され、統合された個人的態度

一方、モラールについては、たとえばヴァイトルス (Viteles)は、モラールとは、特定の集団または組織に満足し、ひきつづきその成員たらんとして、その集団または組織の目標にむけて進んで努力しようとする態度である、と説明している。

一般に、モラールが集団に関わる概念であり、態度の一様相であることについては、研究者の見解は一致しており、上記のヴァイトルスの場合も、モラールの概念は、態度の集団概念を用いて説明されている。もともとは個人概念である態度の概念から、集団概念であるモラールの概念を説明するにあたっては、バーナードの集合的態度の概念が、その理論的な根拠を与えている、とみることができる。

一般的態度と個別的態度

態度に、一般的態度と個別的態度の別があることを指摘したのは、オールポート(Allport,1935)である。オールポートは、これら2つの態度の特徴を、それぞれ、次の様に説明している。

a 一般的態度 対象が一般的で特定されにくい場合に生起している態度であり、行動化しにくく、時として短絡的に暴発する。
b 個別的態度 対象が具体的に限定されている場合に生起している態度であり、行動化、意見化しやすい。

実際のところ、たとえば、経営全般に対する一般的態度については、これを社員に質問しても、はかばかしい反応をひき出すことは困難だろう。しかし、上役のこと、残業のこと、ボーナスのこと、などに対する個別的態度については、賛成―反対、満足―不満、といった反応を引き出すことは比較的容易だろう。オールポートの説明にあるように、前者は行動化や意見化がしにくく、後者はそれがしやすいからである。

ラザールスフェルド他(Lazarsfeld etal,1950)の潜在構造分析の手法においては、スピアマン(Spearman)の二因子説に準拠しつつ、態度測定に含まれる質問項目の成分には、質問項目の個々に関わる特殊因子(Sファクター)だけでなく、対象の全体に関わる一般因子(Gファクター)が含まれていることが、仮定されている。態度測定においては、一般に、質問項目間に比較的高い内部相関が観測されるが、これは、一般因子(Gファクター)に対する反応の一貫性によると考えられている

オールポートの態度理論とスピアマンの二因子説は、最初に個別的態度の指標を獲得し、次にその代表値をもって一般的態度の標識とする、という慣例的な操作に対して、理論的根拠を与えているとみていいだろう。

すなわち、モラールを測定しようとすれば、われわれは、順序として、オールポートのいう行動化あるいは意見化のしやすい個別的態度から入っていくことになる。一般的態度については、こうして得られた個別的態度の標識を集約することから、その標識を得ることができる。この操作は、たとえば、スピアマンの二因子説によって理論的に支えられている。

尺度化と標準値による分析法

質問紙法を用いた態度測定については、サーストンの等現間隔法、リカートの集積評定法、ガットマンの尺度分析法、ラザールスフェルド他の潜在構造分析法、などが、代表的な尺度化あるいは標準化の方法である。

取り扱いの簡便さから、NRCSは、基本的には、リカートの集積評定法によっている。しかし、われわれが扱うのは集合的態度であり、それゆえ、特に標準化の面で、NRCS独自の工夫が行なわれている。

【標準値(Standard Morale Value)の決定】

NRCSで、われわれが問題にしているのは、集合的態度であるから、まず、成員個人個人の反応を当該の集団全体の反応へと集約する必要がある。次に、母集団のなかでの当該集団のレベルを知るためには、これを標準化する必要がある。これについての手続きは、概略、次の通りであった。

a 集団ごとに、質問項目のそれぞれについて、その反応率(満足反応の出現%、不満反応の出現%)を求め、これを項目の得点とした。
b 領域、分野、TML(士気の総合水準。Total Morale Level)の得点は、それぞれ、次の式によって計算した。
  [(当該反応の総数)/(下位項目数×集団の人数)]×100
   ※ここでの値は、下位項目の得点の平均と等しくなる。
c 得点ごとに、得点の累積度数分布表を作成し、これからパーセンタイル順位、パーセンタイル値を求めた。NRCSにおいては、すなわち、パーセンタイル値を標準値として、診断のモノサシとして用いる。

実際の診断は、調査結果から求められた、項目、領域、分野、TMLの得点を、標準値のモノサシ体系に照らし、パーセンタイル順位を読み取り、これを吟味することを通して行われることになる。

こうした標準化されたモノサシを用いることにより、当該集団の母集団の中での位置の特定が可能となり、当該集団においては、項目間、領域間、分野間の比較が可能となる。結果として、当該集団の抱える問題点の所在を、より的確に指摘することが可能となる。